病院などで働くリハビリテーションの職業には、いくつかの職種があります。ここでは、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の職業の違いについて各項目にまとめました。
理学療法士(Physical Therapist:PT)
1. 職務概要
1.1 患者評価と診断
患者評価は治療に先立ち行われます。患者の現状を正確に把握するために行われ、治療と同じくらい重要なステップになります。理学療法士は患者のまず病歴を確認し、身体機能やそれに伴う運動制限、痛みの程度などを詳細に評価します。この評価を行うことで、患者の状態に合わせた最適な治療計画を立てることが可能となります。逆にこの評価を蔑ろにしているセラピストは、患者の状態を考えず、ただ定番の治療方法を提供しているだけ、ともいえます。
理学療法士は様々な評価ツール(専門用語では評価バッテリー)や習得した手技を駆使して、患者の状態を客観的かつ主観的に評価します。例えば、身体の動きや姿勢を分析するための動作評価、特定の筋肉や関節の機能を測定する機能的評価などがあります。これらの情報を総合的に考慮することで、症状の原因や治療の方針を明確にすることができます。
理学療法士の患者評価と診断は、健康回復の第一歩と言える重要なプロセスです。正確な評価と診断に基づいた治療は、患者が日常生活において最良の状態で機能し、健康を取り戻すための大きなステップとなります。
1.2 治療プランの策定
患者に合わせた運動療法やリハビリテーションの計画を立案し、それに基づいて治療の方針を決定します。患者の特定のニーズや能力に応じて、個別の治療目標を設定し、その達成に向けて計画を調整します。治療プランは病気の種類によって変わるだけでなく、その中でも様々な状態の変化、合併症、患者の生活背景など、色々な要因を考慮して検討しなければいけません。
2. 仕事の範囲
2.1 運動療法
理学療法士は運動療法を通じて患者の筋力、柔軟性、協調性を向上させます。具体的なエクササイズやストレッチングなどを用い、患者の体力や機能を改善させることが求められます。テレビや映画などでは平行棒で歩く練習をしている場面がよく流れますね。
2.2 リハビリテーション
外傷、手術、または疾患による機能の喪失を取り戻すためのリハビリテーションプログラムを提供します。患者の日常生活において必要な動作や活動を回復・向上させることが重要です。
2.3 予防措置
運動に基づいたアプローチを使用して、怪我や疾患の予防をサポートします。姿勢の改善や適切な体の使い方を指導し、将来的な問題を予防する役割も担います。特にスポーツ場面ではこのような取り組みがされています。アスレチックトレーナーという資格もあります。
3. 必要なスキルと資格
3.1 解剖学と生理学の知識
人体の構造と機能に関する深い理解が必要です。筋肉や骨、神経などの生理学的な知識を駆使して治療計画を立案します。
3.2 コミュニケーションスキル
患者との円滑なコミュニケーションが不可欠です。患者の症状や進捗を理解し、効果的な指導やサポートを提供するためにはコミュニケーション力が求められます。
3.3 国家試験合格
理学療法士としての資格を取得するためには、国家試験に合格する必要があります。資格取得後も継続的な教育を受け、最新の治療手法や知識を取り入れることが期待されます。あくまでも国家試験は資格を取得するためのもので、働いてからはそれぞれの療法士が自己研鑽に励まなければいけません。
作業療法士(Occupational Therapist:OT)
1. 職務概要
1.1 機能評価と治療計画
作業療法士は患者の日常生活動作における障害を評価し、それに基づいて個別の治療計画を立てます。日常生活における機能の低下や活動の制約を明確に把握し、改善のための計画を作成します。もちろん、理学療法士と同様に、身体機能の評価を行います。加えて、認知機能や精神機能を把握する必要があります。
1.2 日常生活の向上
患者が自立して日常生活を送るためのスキルを向上させることが主な目標です。日常的な活動において患者が可能な限り独立した生活を営むことを支援します。例えば、歩けるようになることが理学療法士の治療目標であった場合、作業療法士は歩ける生活の中でどのような活動をどのように行っていくかを考えます。普段の生活でどんな場所に行き、どんな仕事や遊び、趣味の活動などを行っていたのかに合わせて治療の目標を検討します。
2. 仕事の範囲
2.1 日常生活訓練
身の回りの環境での活動を改善するために、患者に対して訓練を提供します。食事の準備、自己ケア、仕事、教育など、日常的な活動に関するスキルを向上させることが重要です。
2.2 助具の提供
特定の活動をサポートするために、適切な補助具や福祉用具を提案・利用します。患者の個別のニーズに応じて、生活の質を向上させるためのツールを活用します。
2.3 職場復帰支援
患者が仕事に戻るためのスキルを向上させ、職場復帰をサポートします。職場環境に適応するための訓練や調整が含まれます。職業に合わせた個別性の高いサポートが求められます。
3. 必要なスキルと資格
3.1 人間心理学
患者の心理的側面を理解し、治療に統合するための知識が必要です。患者のモチベーションや心理的なニーズを考慮に入れながら治療計画を進めます。
3.2 対人スキル
患者やその家族との協力的な関係を築くためのコミュニケーション能力が求められます。患者との信頼関係を構築し、共同で目標に向かって働くことが必要です。近年では、患者だけでなく、その家族に病状を理解してもらうこと、介助の方法、家族の支援の方法などを患者の家族を対象に行うことも治療のひとつとして考えられています(家族指導、という表現をします)。
3.3 国家試験合格
作業療法士としての資格を取得するためには、国家試験に合格する必要があります。資格を保持したまま、継続的な専門的な発展や学習が求められます。理学療法士と同じく、あくまでも国家試験は資格を取得するためのもので、働いてからはそれぞれの療法士が自己研鑽に励まなければいけません。各種の研修会や学会などに積極的に参加していく必要があります。
言語聴覚士(Speech-Language-Hearing Therapist:ST)
1. 職務概要
1.1 言語・コミュニケーション評価
言語聴覚士は患者の言語やコミュニケーションの障害を評価し、それに基づいて治療計画を立てます。言語能力、発声、コミュニケーションスキルなどに焦点を当て、個別のニーズに応じたアプローチを提供します。
1.2 嚥下障害治療
嚥下に関する問題や障害に対しても治療を提供します。食事や飲み物の摂取に困難を抱える患者に対して、安全かつ効果的な嚥下をサポートします。
2. 仕事の範囲
2.1 言語療法
言語聴覚士は発音、語彙、文法などの言語スキルの向上を図るための療法を提供します。特に言語発達の遅れや障害を抱える患者に焦点を当て、適切なアプローチでサポートします。主な対象は発達障害などの言語障害、脳血管障害などの失語症の患者などが挙げられます。
2.2 コミュニケーション訓練
患者が効果的にコミュニケーションをとるためのトレーニングを提供します。これには非言語的な手段や補助的なコミュニケーションツールの利用も含まれます。いわゆる手話やボディランゲージなども含まれます。
2.3 嚥下障害治療
食事や飲み物の摂取に関する問題に対処します。嚥下機能の評価を行い、安全な嚥下を取り戻すための治療を提供します。高齢者や脳血管障害の患者などは、飲み込みの力が弱くなります。食べ物の形状を考えたり、飲み込みの力を上げるような訓練を行います。
3. 必要なスキルと資格
3.1 言語学と音声学
言語障害や発声の問題に対処するための深い知識が求められます。患者の個別の言語ニーズに対応するために言語学的なアプローチが必要です。
3.2 臨床経験
患者に対する臨床的なアプローチの実践経験が必要です。言語聴覚士は患者の状態や進捗を的確に評価し、治療計画を調整する能力が求められます。
3.3 国家試験合格
言語聴覚士としての資格を取得するためには、国家試験に合格する必要があります。資格取得後も新しい知識や治療法の習得が期待されます。理学療法士、作業療法士と同じく、生涯学習として自己研鑽が求められます。
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